Arm Kleidiをオートモーティブ市場向けに展開、AIアプリケーションのパフォーマンスを加速
英Arm(本社:英国ケンブリッジ、日本法人:神奈川県横浜市、以下Arm)は本日、AIを加速するソフトウェアとソフトウェアコミュニティの取り組みをまとめた広範なプログラムであるArm Kleidiを、オートモーティブ市場向けに提供開始することを発表しました。Arm Kleidiを通じて、パートナーは今後、次世代アプリケーションに特化したAIモデルのメリットを車載分野で引き出すことで、より迅速なデプロイを実現できるようになります。
Armのオートモーティブ事業部門プロダクト&ソリューション担当バイスプレジデントであるスラジ・ガジェンドラ(Suraj Gajendra)は、次のように述べています。「自動車業界におけるAIは自動運転車の心臓部として語られるケースが一般的ですが、これは未来的な意味合いを持っており、量産車が実際の道路を走るのは何年も先のことです。しかし実際のところ、アダプティブ・クルーズ・コントロールからパーソナライズされたインフォテインメント・システム、ドライバーと同乗者の監視に至るまで、現行の新車で提供中の車載アプリケーションや機能の大半は、すでにAIを活用しており、こうしたアプリケーション固有のモデルやワークロードはArm環境で実行されています」。これらは、Armの演算プラットフォームの柔軟性、パフォーマンス、電力効率、拡張性によるもので、自動車業界全体で開発者に選ばれるプラットフォームとなっています。
一方、拡大するAIや複雑化するワークロードへの需要が高まり、車載アプリケーションおよび機能が高度化する中、自動車業界は、次のような独自の課題に直面しています。
- 他の市場と比べてオートモーティブ分野には網の目のような膨大なソフトウェア・システムが存在しており、開発環境が極めて複雑
- クラウド環境で開発されたアプリケーションを自動車にシームレスにデプロイするため、クラウドから自動車にまたがる堅牢なソフトウェア開発/検証インフラストラクチャが必要
- ソフトウェアには、安全性とセキュリティの点で厳格な業界標準・規制への準拠が要求される
- 自動車の所有サイクルは長く、ソフトウェアを拡張することで、何年もの間、新機能やアップデートに対応する必要がある(こうした状況は、最新版のソフトウェア・アップデートが利用可能な時点でスマートフォンを更新する場合と類似しているものの、スマートフォンの製品サイクルは短い点が異なります)。
こうした独自の課題に対する取り組みとして、Armはこれまで業界をリードするAutomotive Enhanced(AE)技術を提供しつつ、SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)を通じて、仮想プラットフォームと標準規格準拠のソフトウェア・ソリューションに関わるコラボレーションを自動車エコシステム全体で推進することで、自動車の開発サイクルを短縮してきました。これらのソリューションはいずれも、ユビキタスなArmの演算プラットフォームを通じて、アプリケーションの性能向上と市場投入期間の短縮をシームレスに実現するためのツールを開発者に提供するものです。
Arm Kleidiでパフォーマンスを自動的に最適化
2024年に発表されたArm Kleidiは、モバイル、クラウド、データセンターなど主要な市場を対象としており、開発者に求められる作業を一切増やすことなく、Arm CPU上で実行されるAI推論ワークロードのソフトウェア性能を最適化します。Kleidiはすでに、ExecuTorch、llama.cpp、MediaPipe、PyTorchなどの一般的なAIフレームワークの最新版に統合されており、開発者はアプリケーションの構築を開始するだけで、Armベースのプラットフォーム上でパフォーマンスを自動的に向上できます。
こうしたパフォーマンスの最適化がオートモーティブ市場に提供される中、大手テクノロジー企業はすでに広範な新規アプリケーションで車載ソフトウェアの向上を実現しています。自動車用チャットボット、パーソナライズされたドライバーへの推奨事項、ユーザー支援・診断・問題解決用の画像とモーションの強化など、主要な開発フレームワークにKleidiライブラリを統合し、AIアプリケーションを促進することで、より迅速かつ効率的な車内エクスペリエンスの提供が可能です。
AWS Automotiveが自動車用チャットボットの応答時間を10倍向上
ArmとCorelliumの仮想プラットフォームを使用することで、AWSは、ソフトウェア定義型自動車(SDV)向けの新たな概念実証用AIチャットボットを開発しました。これによりドライバーは、紙に書かれたユーザーマニュアルのページをめくることなく、自動車に直接質問を投げかけることや、ダッシュボードのアラートについて問い合わせることが可能です。最新版のllama.cppでKleidiAIの統合を活用し、チャットボットを開発した結果、AWSはチャットボットの応答時間を10倍向上し、わずか1~3秒でのチャットボットの応答を実現しています。このほか、KleidiAIの使用により、開発者が低レベルのソフトウェア最適化に集中する必要がなくなった結果、アプリケーションの開発期間も6週間短縮されました。詳細については、ブログ記事(英文)をご覧ください。
VicOne、自動車のサイバーセキュリティ脅威に対する応答時間を短縮
VicOneのSDV向けオンボード・ソリューションのxCarbonにより、自動車によるサイバーセキュリティ脅威の学習と認識が可能となることで、クラウドへの依存を抑えた形で車両を防御でき、コストを削減しつつ、データをより安全な状態に維持できます。TinyLlama-1 1Bモデルを使用することで、VicOneは大幅な性能向上を達成しており、プレフィルプロンプト速度は2倍、トークンの生成は60%以上向上したことで、車内で検知された任意のサイバーセキュリティ脅威に対する応答時間が短縮されました。Kleidiによって実現したパフォーマンスの最適化により、VicOneはエンジニアリング作業を増やす必要なく、より安全かつセキュアな運転体験を提供できるようになりました。
Sonatus、OEM向けAI Technician Builderをシームレスに提供、クラウド上のArmベースAWS Gravitonチップへの対応を実現
クラウドからエッジまでを網羅したプラットフォームであるSonatusのAI Technician Builderによって、OEMは顧客サービス・エージェントを開発し、自動車に関するユーザーからの問い合わせに迅速に対応し、運転体験を向上できます。このプラットフォームは当初はクラウドベースのGPUを使用していましたが、Kleidiに最適化されたフレームワークを使用したことで、AI Technician Builderは容易な移植作業を通じて、クラウド上のArmベースAWS Graviton Amazon EC2インスタンスへの対応を実現しました。これにより、ユーザーの必要とする価格性能比と応答時間を維持しつつ、ネットワーク接続の不要なArmベースの車載演算プラットフォームにより、車載AIワークロードをエッジ側で実行する道が開かれました。
自動車およびその先のAIイノベーションをArmが推進
現在では、世界の自動車メーカーの94%が最新の車種にArmテクノロジーを採用しています。Armプラットフォームは自動車業界に広く浸透しており、AWS、VicOne、Sonatusが主要な車載AIアプリケーションですでに実現しているように、Armは現在、影響の大きなパフォーマンス最適化の実現で独自のポジションを確立しています。Kleidiを既存のソフトウェア・スタックに統合することで、より効率的かつ高度なAIユースケースや、1分1秒を争うクリティカルな車載アプリケーションの応答時間の短縮への可能性が広がります。これにより、開発者は極めて高い能力を獲得し、オーバーヘッドや開発作業を増やすことなく、Arm CPU上でアプリケーション固有の新たなAIモデルやワークロードを最適化し、実行できるようになります。
Kleidiを自動車市場に展開することで、Armは、クラウドからエッジのすべてのArm市場を対象に、AI開発者にシームレスなパフォーマンス・アクセラレーションを提供するという約束を達成しており、開発者はかつてない魅力的なユーザー体験を創造し、AIによる変革の可能性の限界を突破し続けることが可能です。
詳細については、https://www.arm.com/ja/markets/artificial-intelligence/software/kleidi をご参照ください。
Armについて
Armは、業界最高の性能と電力効率に優れたコンピューティング・プラットフォームであり、コネクテッドな世界における人口の100%に貢献する比類のないスケールを備えています。Armは、演算に対する飽くなき需要に応えるため、世界をリードするテクノロジー企業に先進的なソリューションを提供し、各社がAIによるかつてない体験や能力を解き放つことができるよう支援しています。世界最大のコンピューティング・エコシステムと2,000万人のソフトウェア開発者とともに、私たちはArm上で築くAIの未来を形作っていきます。
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