Armの歴史
世界で最も広く普及したコンピューティングプラットフォームに至るまでのArmの歩みは、企業としてのさまざまなマイルストーンや製品による成果、そして1990年の会社設立以前の起源など、幅広い出来事で構成されています。
Acornの時代
Armの前史は45年前にさかのぼります。Acorn Computers社は1978年、二人の共同創業者Chris CurryとHermann Hauserによって設立されました。当時スタートアップ企業であった同社は、英国内のすべての教室においてコンピューターを設置することを目的とした英国政府主導の取り組みであるBBC Microの製造と生産の権利を獲得しました。この取り組みの一環として、Steve Furber教授とSophie Wilson教授が、最初のArmプロセッサー、ARM1を設計しました。
ワードプロセッシング、表計算、グラフィックスレンダリングなど、Acornコンピューター上で動作するプログラムの命令を効率的に実行するように設計されました。これにより、幅広いテクノロジーデバイスや市場で使用されている、現在のArmプロセッサーの基礎が確立されました。
しかし、Acorn社は80年代半ばに経営不振に陥ったため、Olivetti Groupに買収されました。HauserはOlivetti Groupで研究担当VPに就任しましたが、その後まもなく退社しました。一方、FurberとWilsonは、次のArmプロセッサーであるARM2コアの開発を続けました。
Armの設立
Armは、1990年11月にAdvanced RISC Machines Ltdとして正式に設立されました。この会社は、Acorn Computers社とApple Computer社(現Apple Inc.)、VLSI Technology社(現NXP Semiconductors N.V.)の合弁会社でした。同社は、12人のArmアーキテクチャ設計者:Jamie Urquhart、Mike Muller、Tudor Brown、Lee Smith、John Biggs、Harry Oldham、Dave Howard、Pete Harrod、Harry Meekings、Al Thomas、Andy Merritt、David Sealによって設立されました。1991年、初代会長兼CEOであるRobin Saxby卿の入社とともに、チームはCambridgeshireにある古い七面鳥小屋からコンピューティングの展望を変えるべく出発しました。
新しいIPビジネスモデル
1993年、Armアーキテクチャを採用したApple Newtonが発売されました。しかし、商業的な成功を収めなかったことから、Saxbyは単一の製品でArmという会社を維持することはできないと実感しました。そこで、当時一般的ではなかったIPビジネスモデルを導入しました。つまり、さまざまな企業に、前払いのライセンス料と、生産されたシリコンの量に基づいた権利使用料を対価として、Armプロセッサーの生産権利を付与するようにしたのです。
Armがモバイルに参入
1993年、ArmはシリコンベンダーのTexas Instruments社と契約を締結し、同社はNokiaにArmの設計を次のGSMモバイルに使用するよう進言しました。初のArm搭載GSM携帯電話となったNokia 6110は大成功を収め、Arm7プロセッサーはArmのフラッグシップモバイル設計となりました。現在、世界のスマートフォンの99%以上がArmテクノロジーをベースとしています。
会社の上場と成長
90年代の成功を経て、ARM Holdings PLCは、1998年4月17日にロンドン証券取引所とNASDAQへの重複上場を果たしました。2000年代初頭のITバブル崩壊にもかかわらず、Armは会社として成長し続けました。Saxbyの退任に伴い(Armの会長としては続投)、2001年にWarren Eastが新しいCEOに就任しました。モバイル市場における同社の成功は2000年代を通じて続いたため、Armは最も広く使用されるプロセッサーアーキテクチャとなり、従業員数も2000年代のわずか3年間で400人から1,300人へと3倍に増えました。
製品ラインの多様化
Armの企業としての成長は、製品ラインの多様化につながり、2000年代にはCortex-A、Cortex-R、Cortex-M CPUプロセッサーを市場に投入しました。Cortex-Aは、モバイル分野における高性能化と効率化の推進を継続し、Cortex-Rは、接続性が普及しつつある時代において、高度に専門化されたリアルタイム処理の要件に重点が置かれていました。一方、Cortex-Mは、成長するモノのインターネット(IoT)に広く浸透し始めたマイクロコントローラ向けに、極めて低消費電力で低コストのコアを提供しました。また、Armは2006年、ノルウェー科学技術大学によるリサーチプロジェクトのスピンオフであるFalanx Microsystems A/Sを買収し、Mali GPU製品ラインの開発に至りました。
スマートフォンの台頭
2007年に世界初のスマートフォンが登場したことで、長いバッテリー持続時間を維持できる性能向上がより一層求められるようになっただけでなく、モバイルアプリの台頭による幅広い新たなコンピューティング機能に対応する必要も生まれました。Armは、Cortex-A9 CPUマルチコアプロセッサーでこの課題に立ち向かい、そして2011年には、高性能を実現するための強力なコアと、高性能を必要としない場面での低電力のコアを組み合わせた、革新的な「big.LITTLE」アプローチを導入しました。このアプローチは現在もArmで使用されています。
接続性の推進
2010年代初期から中期にかけてIoTとコネクテッドデバイスの普及は、Armに新たな技術的機会をもたらしました。Armのテクノロジーは、モバイルの枠を超え、拡大するテクノロジー環境において、かつてなく増え続ける多様なデバイスに対応していきました。IoTの分野では、超低電力のセンサーとして使用される最小の組み込みデバイスから、高性能で大規模な産業アプリケーションやストレージアプリケーションまで、あらゆるものが含まれます。2022年には、世界の組み込みIoTデバイスの65%がArmベースのシステム・オン・チップ(SoC)で構築されていました。
ソフトバンクによる買収
Armのグローバルなテクノロジー業界における普及が、ソフトバンクの創業者である孫正義氏の目に留まり、2014年にWarren Eastの後を継いだ当時のCEO、Simon Segarsとの間で会談が行われました。カリフォルニアでのこの会談から数か月後の2016年9月5日、ソフトバンクはArmの買収を完了しました。これによりソフトバンクがArmの支配株主となり、約20年間にわたってロンドン証券取引所とNASDAQにおける公開企業であったArmは、非公開企業となりました。
新規参入での成功
ソフトバンクの買収によって、Armは多額の投資が可能になり、オートモーティブやインフラストラクチャなど新興分野での技術多角化が継続的に進められました。この多角化戦略は、当時Arm社内でIP製品グループを率いていたRene Haasが主導しました。
2018年10月にArmが発表した高性能コンピューティング(HPC)およびクラウドコンピューティングソリューション向けのNeoverse製品ラインは、2010年代の終わりに大きな成功をもたらしました。あらゆる主要なハイパースケーラーでArmベースのインスタンスが採用されたことや、2019年に世界最速のスーパーコンピューターにArmベースのSoCが搭載されたことなどがその例として挙げられます。その一方で、自動車における安全で電力効率のよいコンピューティングへのニーズの高まりにより、この市場で20年以上にわたり活動してきたArmは車載分野における実績が成長し続けていました。
2020年代の新しいアーキテクチャ、新しいCEO
2021年3月、Armが開催したVision Dayにおいて、Armは高度なコンピューティングとセキュリティ機能を搭載した新しいArmv9アーキテクチャの発表をしました。2020年9月には、拡大しているデータセンター市場におけるArmの緊密なパートナーであるNVIDIAが、Armの買収計画を発表しました。しかし、ソフトバンクとNVIDIAの誠意ある努力にもかかわらず、この取引の成就を妨げる規制上の重大な課題を理由として、この買収案は18か月後に撤回されました。2022年2月、30年間にわたりArmに貢献してきたSegarsが退任を決め、Rene HaasがArmの新しいCEOに就任することが発表されました。
現在のArm
Armは、その成功の原点と過去30年以上にわたる何千人もの優秀な従業員による成果によって、半導体企業にライセンスを供与する技術の世界的なリーダーとなっています。Armは、真のグローバル企業として、21か国に43のオフィスを展開し、本社である英国ケンブリッジに勤務する3,000人近くを含め、世界中に6,000人を超える従業員を擁しています。
1,000社以上の信頼できるパートナーから構成される優れたテクノロジーエコシステムにより、Armのテクノロジーは2,650億個以上のチップに搭載され、センサーからスーパーコンピューターまで、あらゆるものでその力を発揮しています。Armは現在、世界で最も普及しているコンピューティングプラットフォームであり、そのテクノロジーは世界人口の約70%に利用されています。
Cambridgeshireの小屋でArmを立ち上げた12人のメンバーが思い描いていたビジョンのとおり、Armはこれからもコンピューティングの未来を支えるテクノロジーの開発に取り組んでまいります。